ある晴れた夏の日の午後。日曜日。キッチンの時計は1時を回っていた。
「おにぃちゃぁあん、コンビニ行かない?アイスクリーム食べた〜い」と妹が呼ぶので、クーラーをつけて涼んでいたぼくは行く気にならないと首と手を横に振った。
「わたし、運転するからねっねっ!!」
とやけに肩を揺すぶっては離れてもくれないので、仕方無しに付き合うことになった。
兄妹2名で足早に玄関を出た。妹は超フルスピードに黄緑の花柄のシャツにジーンズに着替えわたしは白いTシャツに茶色の短パンとさっきの格好で・・・・。ガレージに回り妹の愛車ピンクの×−チに飛び乗った。妹は今年の春短大生になったばかり。免許を取得して数ヶ月にはなっているので安心して乗っていられるだろうと思った。我が家から一番近いコンビニまでの道のりは車で約15分から20分の場所にあった。思えばこの住宅街は結構不便なような気もするが、こんなときこそなおさらであった。
もちろん私は助手席に乗り、車内冷房を高圧まで持っていってしばし涼んでいた。
・・・・・・走りはじめて2,3分経過したころだっただろうか。
「ん〜も〜ぅ、遅いいいいぃ〜とーろーいーぃぃぃぃ!!!」
キキーッ。
『おい・・・何でブレーキなんか踏んでるんだ? このへん、信号なかったぞ』
ふと顔をあげた瞬間、けものかな?(猫とか狸とか)と思った・・・・・。
目の前には一台の車。・・・・・・時速40km。このあたりではとても無難なスピードである。さすがに一斜線をすれ違うほどの田舎道ではないが、辺りにはなだらかな丘陵(ススキのような雑草が生い茂っている)と田園地帯(とにかく田んぼ)で見通しはまずまずであった。
妹は嫌味たらたらで至近距離すれすれ?で先方に見える×ラらしき白の軽自動車に向かって突進するかのようだった。30cmしか間隔が無いのかのように思われた。
「げっ、近すぎじゃねえの?まさか今日発売のなんとかとかにつき合わすんじゃないのか」
ぼくはシートベルトはともかく、反射的に手すりを掴んだ。道は舗装されてはいる・・・・がしかしこの瞬間妹が前の車を煽ったため、車が急激に前後左右に揺れてしまったのだ。
「だってぇーこのへんカーブとかあるし〜、変に追い越せないし〜・・・・ちっ」
「うわぁぁぁああ・・・・事故りそうだぁぁあぁぁぁ!!」
「窓あけてないでしょうね」
「開・け・て・ま・せ・ん!!」
しばらくして街と住宅区を示す標識が見えたとき、白い×ラは右へ指示器を切った。
「ふん、ようやく消えてくれた」
妹はそうつぶやくと、標識を過ぎたそのとき急激にアクセルを踏んだ。
ブゥゥゥウウウゥゥ〜〜ンンン!!!
「ぎぇぇぇぇぇ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
は、早すぎ? と思いきやメーターを除いた
。
「こんなところで、90って何?」
そう、メーターの赤い針は“90”にさしかかろうとしていた。だって他に車もいないしー、
と妹は言うが、さっきも何台か立て続けに追い越してきたような気が・・・・。
このまま行くと20分程度かかるはずが半分の時間ですむのでは、と気楽になったりもしたが、ひたすら左腕のグリップを落とさなかった。
丘と田園・・・・の途中に小ぢんまりとした界隈が見えた。今年に入って出来た地帯・・・(コンビニと本屋が隣接、その前に薬局・・・とその隣に医院らしき建物建設中の場所だった。
それらを覗いてはまったく何もなく、見渡すと手のひらくらいに普通の民家が映る景色の田園地帯であった。
キキーッ・・・キュ〜〜ン・・・・しゅるるるるるる・・・。(謎)
そんな音を立てて、だだっ広いコンビニの駐車場に車を止めた。コンビニの駐車場はトラック5.6台に車は十数台止められとっても便利がよかった。自分も財布を持ってきていたので、店内に入って見ることにした。
『いらっしゃいませ〜』と活気のある店員・・・・妹くらいの女の子がレジに二人と、それくらいの歳の男が奥で何やらガサガサやっていた。自分としてはコンビニなんてのは自宅から車で3、40分の仕事場(ようするに街なか)で年に2,3回。それ以外は仕事場から自宅までの帰り道にある激安スーパーで買い物をしていたので、コンビニの雰囲気に馴染むのに時間がかかっていたらしい。店内の入り口でキョロキョロと見回してしまい、挙動不審に思えたのか、店員の一人にジロジロ見られてしまった。
ぼくは『これは大変だ』と思い平静を装って、適当にジュースやポテトチップス、チョコレートなどと、真新しいものばかりかごの中に入れた。・・・・もうその時点で妹は他のコーナーに行ってしまっていたのでまたあたりを見渡すと、洋菓子屋においてあるようなプリンやゼリーが立ち並ぶコーナーにいた。
「アイスじゃなかったのかよう・・・」
ぶつぶついいながら、さっさと退散だと言おうとして背後に忍び寄った。
「いゃ〜ん、ぐ〜ぜぇぇぇ〜ん!!」
妹に似たような格好の女の子ふたりが話しかけてきた。二人とも細長いジーンズにがら花模様に幾何学模様のTシャツ、茶髪のロングヘアーを上の方で軽くまとめて・・・似たような子たちだった。どうやら友達らしい。しかたがないので横のコーナーの商品を見る振りをした。酒のつまみやお茶漬け海苔など、別に今どうでもいいような品物ばかりだった。困った挙句に、『あらびきサラミ』を一本取って、しゃがみこんでしまった。・・・・う〜ん、ぼくって変な人?
しかも背後の人物・・・・に気づいた妹は『今日はおにいちゃんと一緒〜』と指を指してくるものだから、『あらびきサラミ』を持ったまんまで『あ、どーも・・・・・』。激恥ず・・・・に紹介され・・・・・。とりあえず女の子二人が『こんにちはぁ』と言ってくれたのでちょっとほっとしてみたり・・・・・・。
それでそのまんままた放置されてしまったので、妹たち3名の話を盗み聞くこと15分間・・・・。
「今、短大だよねー懐かしいよねぇ〜って今年だったよね〜卒業したの〜」
「あはははは・・・・・そぉだったよねぇ〜、で今日なに?」
「ん?あたしたちは〜暇つぶし!!」
「そだそだ、コレおいしいよ食べてみて!!」
「えっマジ〜あたしはいつもこっちなんだー」
そしてすすめられた品とその隣の品をひとつずつ取っていそいそとかごに入れる妹。
『う〜んどうやらプリンのようだが、どっちも同じに見える・・・・』
さて会話はさらに続く。
「日曜って暇〜、でー必ずここに来てる」
「会わなかったよねぇー、でもよく逢えたよねー」
「奇遇奇遇」
「ねえ。あの店員の子ってさ、元ウチの隣のクラスの子じゃない?」
「あっ、そうかも」
「確か久田さん」
「やっぱりぃ〜、ちょっと話しかけてみようよ!!」
急に妹は振り向き斜め下の私に車のキーのついたじゃらじゃらしたものを手渡した。
「ごっめ〜んちょっと長くなるかもだから、車先に行っててくれる?」
「・・・・あいよ」
キーその他の束を受け取って立ち上がると、女の子二人が
「ほんと、すいませんねぇ」
「妹さんお借りしますぅ〜」
なんていうもんだから『いや・・・どーも・・・・・・じゃ』とだけ云って、元に戻すはずのサラミを掴んでもう一方ではカゴを握り締めてレジへ突進した。
支払いを済ませてふぅ、とため息を吐きながら妹の車の鍵を開ける。妙に蒸し暑いので一旦買い物袋をシートに置いてからそのまま店の横の自販機で冷たいコーヒーを買って、また車に引き返した。この間約2分間。だだっ広い駐車場で店の前には自分たちの車と自転車が数台・・・・。
やれやれ、と缶のふたを開けることには車内はゆるゆる冷たい風が吹いて来ていた。そして半分飲み終わった頃に店の中を覗きこむと、さっきの女の子二人に妹がレジの女の子を前にして何やら話し込んでいた。そういやレジの女の子も似たような雰囲気をかもし出しているような気がした。同年代なんだろうという気がした。
そしてそれから20分ほど経過・・・・・。ようやく3人連れで店のドアを開けた。・・・・たはいいが、今度は立ち止まって3人とも携帯を出して何やら喋っていた。
ギュ――――ン。ドドドド・・・・
キキーッ。
「ん?」
×−チの横に車が2台。青いスポーツカー(窓が無くて後ろにほろがついている・・・)とその横に薄黄緑の**(若者向け!!)が止まった。バタンバタンと扉を閉める音がして、中からそれぞれ黒い髪に黒縁の眼鏡をかけて、白いシャツに黒の短パン・・・茶髪に赤いふちのサングラス、青と緑の横じまのシャツに白いジーンズ・・・・両方若葉マークをつけていた。
早速二人ともポッケに手を入れて、『よぅよぅ』と言わんばかりに女の子3人に寄って行った。
「あいつら・・・・ナンパかよ・・・・・」
すかさず妹だけは(謎)連れて帰るぞ・・・という勢いでそっとドアを押した。
「げっ、久しぶり〜、なになに〜」
「うっわ〜免許取ったんだ〜」
・・・・・思わずドアをバタンと閉めた。
「知り合いじゃねえかよう・・・・・・・」
まったく、どいつもこいつも・・・・と思いながら、さっき閉めたドアの音が向こうの連中に聞こえてはいないかと慌てふためく始末。
少し眺めていると5人そろって携帯を出しているところを見ると、電話番号交換らしきことが判明した。
それからまた店先で、話が盛り上がっているようだった・・・・・・・。かれこれ30分を過ぎる頃、中からやっぱり(同級の子)店員が出てきて4,5分ほど話に加わって。またその店員も携帯を出し始めて今度は6人で携帯をしっかり握って何やら叫んでいる様子・・・・。
こちらは快適空間で、色々詮索したり店の中をじろじろ眺めていたがコーヒーがもうなくなってしまった。もう一本・・・・と行きたいところだが、店の前を6人が占拠しているのでなんだか(恥ずかしくて)出るに出れない。
そうこうしているうちに小走りで妹が駆け寄ってやってきた。
「おにいちゃん、コレアイス。冷やしといてくれる?」
そういったきり、バタンと扉を閉めてまた話に加わってしまった。
「冷やしといてって・・・・?」
思わず受け取ってしまったモノは“アイスクリーム”ソフト型のやつ・・・。
コンビニから出てきてかれこれ30分は経っているのにマズイんじゃないか、と思いながらも冷房を最強にさせ、缶を移動しカップ受けのスペースに袋を置いた。これで数分経たないうちに快適空間から極寒と化してしまう車内になってしまい、非常に肌寒く、両腕に鳥肌が立ってしまった。
やがて、「バーイバーイ」とか「じゃあなー」とかいう声が聞こえたかと思うと、(やっとのことで)小走りで妹が戻ってきた。
「遅い・・・・・・・遅いんじゃ〜〜」
体じゅう鳥肌だらけである。
「アイスひとつあげるからん〜ごかんべん〜。あー楽しかったー」
それから10数分。来たときと同じように、 ぼくの左腕のグリップは乱れることなく静止したままであった・・・・。
自宅のリビングへたどり着くと、『二人で何をしていたの』と父と母が尋ねた。家をでてからかれこれ2時間以上経っていたからだった。時計は3時をまわってしまっていた。何故か妹は半分溶けかかったソフトアイスを配ろうとしたが冷凍庫に入れなさいよと母に言われ、『僕はそれで』といって溶けかけのを一本受け取って、後でまた固まっているのを(?)頂くことを目論んだ。
そしてひとりまた門に面した客間の縁側に座って、さっきもらったアイスを食べながら、
ポテチの袋をあけようかななんて思っていた、そのときだった。
・・・・ブゥゥゥゥン・・・・・キキーッ!!
ガチャンガチャンガチャン!!
ガサッガサッ・・・・・バタバタバタ・・・・!!!
奇怪な破裂音?がした。
ガサガサバタバタの間に、目の前に黒い影が・・・・・・。
・・・・・・あれ?この人見たことあるな・・・・・、という男の姿が庭先に現れた。ぼくを見つけたその男は熱気の漂っているようなチラシらしきものを一枚差し出して行った。コンビニで見た茶髪の子のほう、だった。
「突然お邪魔してすみません。コンビニ来てましたよね、おにいさんですよね・・・・・こ、これ真里菜さんに渡しといてもらえませんか?」
「はっ、はぁ・・・・・」
茶髪の子・・・青年Aはぺこりと頭を下げて、そそくさと退場していった。チラシにはでかでかと黒インクの字でこう書かれていた。
『同窓会します。みなさん今なにしてますか、
これる人は集まりましょう!! とりあえず8月11日(日)夜6時半、++のコンビニ前集合です。 遅れる人は連絡ください090−****−**** 仲鳥』
「ん? 11日・・・・・って今日じゃないのか?・・・・さっきのやつらは一体・・・・」
腕時計に目をやると、すでに3時40分。笑いが引きつる様だった。しかも、妹の車でシートを倒していたのに見られていたとは・・・と訳の分からない心境・・・・。落胆的なのかどうかは不明・・・・だがそのときちょうど廊下通る妹の姿が見えたので、おーい、といってチラシをひらひらさせて呼んだ。
すると、妹は
「いやぁ〜ん、いまからぁ? 急いで着替えなくっちゃ〜!!!」
と、喜びいさんで二階の部屋へ駆け出して行った。
「また、着替えるのか・・・・・・・」
そしてぼくはまた振り返って庭を眺めながらポテチの袋に手をやった。・・・・外はまだ燦燦と太陽の光が降り注いでいる。もうすぐ夕方になるから、少しは涼しい風が吹いてくるだろうと思った。・・・・・いつもと変わらない庭先の風景。芝生とひまわりが数本咲いているのが見える。
『いゃ〜・・・・・・・・やつら若いっすよねぇ・・・・・・・』
この夏、三十路を目前にした男の独り言だった。
完