2000年8月。23歳フリーターの俺は日雇いの現場作業員の募集で即ok、早速現地へ向かった。
そこには18歳から50歳くらいまでの20数名の男達が集められていた。作業の内容は、約500m四方の荒地にジャングルジムなど遊具を置くなどした広場をつくるため、まず荒地を砂地に変え整地するまでだった。
日数は一週間。弁当持参ではあったが俺は資格をもつため日給も良く、後は『この人らと仲良く(?)できるかな』といったところだった。
一日目から三日目は、草木がボウボウに生い茂った土地を俺はショベルカーで掘り返す。掘り返した土の中から出てくる枯れ木や石などを残りの連中が取り除いては決まったところへ運ぶ。
このカンカン照りの暑さの中で全員黄色いヘルメットに肩にタオルをかけ、Tシャツに作業ズボン姿でよく働くこと。その周りではいま流行りのモデルルームや住宅街が造られてきていた。
「一週間、ってきいてきてるんですけどねえ、この暑さで大丈夫なんですかね?」
休憩中のことだ。
「まあ、君が最後まで頑張ってくれたら」
「アハハ・・・・」
日雇いとはいえどもボスの口調には厳しいものがあった。実はこのボスは派遣社員であり、昔現場監督をしたことのあるという肩書きをもつという話を聞いた。・・・・・久々だなあなどどいうから大丈夫なのかこんなんでとは思っていたのだが。年齢は30歳というがあまり変わらないような気がしてならない。
そんなこんなで4日目から5日目は全員でとりあえず草木・石ころなど取り、全員がかりで砂地へもっていく作業となる。
ところで5日目、昼過ぎに急に小雨が降り出した。
降り出した瞬間、全員ここぞとばかりに手を早め、無我夢中で体を左右に動かし始めた。
「おおお、こいつはいいわい」
ギリギリ50歳ですといっていた、『ジジイ』(皆そう呼んでいた)が叫びだすと、熟年層10人くらいで
日ごろの倍は動いてくれたのでかなりびっくりしていた。
「この後に、遊園地みたいなのができるなんて小さい子も楽しみですね」
「そうだなあ」
俺は小雨をみながら、金髪の自称18歳青年と会話を交わしていた。
小雨は夕方には止み、成果は残り1日で終了かというとことまできていた。期限は一週間のはずだったが、雨に濡れてびしょびしょなのと少し涼しいのとで朦朧としており、どうでもいいやという気になった。
最後の一日かと思った日は、全員で重い石を引きずり平地にしていく作業のみとなった。
その日の夕方、最後の2往復くらいを残し残りは明日午前中のみで解散、とボスからの命令だった。
「それから、午前中くらいで終わりますがー、給料は前もって申し上げましたとおり、七日分お支払いしますのでー」
ハァア〜、と疲労交じりの声があがった。
それからすぐボスは、
「それからちょっとした慰労の品がありますので。サービスですけどね・・・・・」
がやがやと嬉しそうな作業員達。夕日で黄色いヘルメットがやけに輝いているようだった。
ついに最終日。
全員で午前中きっちり2往復重い石を引きずり、なんとかあの荒地をみごとに整地することができた。
後日引取りのショベルカーを、俺は平地の隅に丁寧に置き去りにし、その横に指定どおりにでかい石のかたまりを置くよう若者に言いつけた。
「ハイ中条君、おつかれ様。みなさんもここまでよくやってくれました」
中条とは俺の名前である。
ボスはひとりひとりに茶封筒を配って中を確認させたあと、後ろに積んであったダンボールを俺たちの前に差し出した。
「これはサービスです。お茶はもう温いかもしれませんけどね、パンはひとり3つずつどうぞ」
普段は弁当類は持参なので助かったとおもった。
そして解散。パンを食いながら帰っていく若者もいれば、全部大事にもっていくジジイもいて様々だ。
「しかし中条君のような人がきてくれて、随分とはかどった」
「・・・・・小雨、降りましたしね」
頭をかきかき照れくさそうに俺は笑った。
「さて、と、失礼・・・・・・」
俺だけを残してボスはでかい黒のライトバンの後部座席をあけ、5,6分ほどででてきた。
「・・・・・・・・・・・・?」
カンカン照りの平地を前に、紺のスーツ姿に黄色に金がかった刺繍のネクタイを締めながら、さっきのボスが現れた。
「あっ、びっくりした?これ次の仕事―」
「なんなんです?」
ボサボサの茶髪をきれいにまとめて、スーツを着こなしたボスは別人だった。
「え?今晩からホスト」
「はぁ・・・・」
俺は呆然と立ち尽くし、空き地と化した平地とボスとを思わず見比べた。
「だから、そのまんま。直行ってわけで」
「あっ、はい・・・・」
「んで、そこの空き地、次違う業者が来るからもう俺ノータッチでオーケーなのよ、礼金も最初にもらってるし。んでもやっぱ中条君あんなのきっちり並べて指示までだしてくれちゃって。実はモーマジ10日くらいかかったらどーしよっかなーなんておもっちゃったけど、君がいたからたすかった」
急いでいるのか、ボスは早い口調だった。というよりあまりの変身振りにただ呆然していた。
そして、じゃーねといって、ボスは車に乗り込み市街へ向けて走り去っていった。
・・・・・・・たった独り、現場に取り残された俺はこの7日間を振り返った。
重たい硬い土。
カンカン照りの暑さと汗のしずく。
遊園地で子供の遊ぶ姿を思い描く青年や、小雨が降ってはりきるジジイ達の姿。
・・・・・・・・そしてあのボス。
・・・・俺達の後にはまた別の奴等が来て、さらにまた別の奴等がきて、小さくとも『遊園地』をつくりあげるのだろう、この夏の終わりまでに。
完