その6 うましかパワー

 鉱山町シュトルガット。鉄鋼、銅鉱、及び少量の金属を産する、雑多鉱脈を背景に発展してき
た山岳都市である。東西を山脈で挟まれ、北はレオリア共和国の都市ビリニュスにつながる。
南部の街道はそのままバランヒルトの帝都ドレッドにつながっていた。シュトルガット市は両国
が覇権を争う上での重要なポイントである。
 一万の人口のほとんどが鉱山の仕事に従事する工業者とその家族である。また、人口のお
よそ10%をドワーフ族が占めている。大地の妖精であるドワーフ族は、長年バランヒルト帝国
と友好を結び、帝国の武器生産に協力を続けてきた。しかし、この度のレオリアの侵攻でシュト
ルガットは陥落し、厳しい軍政が敷かれるようになっていた。
 緊迫したムードが張りつめる中、ミリア達はフライングシルクハットのパワーを借りてこのシュ
トルガット市にたどり着いていた。死んでいたゲンブも旅の行程でしっかり復活し、三人はそろ
って敵地に潜入を敢行していたのである。
 酒場の建ち並ぶ繁華街を歩きながら、ゲンブが不可思議そうに周囲を見回した。一万の人
口を持つ大規模都市は、まるで灯が消えたように静まり返っている。
「随分、静かな町ではないか」
トカゲの尻尾のように復活した彼は、いつもの通り、軍服に刀のサムライ・スタイルに戻ってい
た。さすがにフンドシイッチョウで町を歩くわけにはいかない。
「町が落ちて、市民達は喪に服しているのよ。皇帝ミハイルが行方不明ということもあるけれど
ね」
 そういうセイネも、バニースーツから着替えていた。黒い燕尾服にステッキ。胸元には蝶ネク
タイで足にはエナメル地の靴。街頭に立つ手品師のような格好に扮していた。もちろん、大切
なシルクハットは頭の上に健在である。
「で、ここからどうする気だよ。あたしはとりあえずエスナの潰れアンマンをブッ叩きたいんだけ
れどな」
 三人の中で一番みすぼらしい格好となったミリアが唇をつきだして不平を言う。つぎはぎだら
れの革鎧に、所々刃の欠けたオンボロソード。まあ、言うなればいつもの格好である。
「今はまだ動いたら駄目よ。皇子の身に危険が及ぶから」
「どっちかというと、あたし達の方が危険なんじゃないのかい?」
 着替えたとはいえ、三人の格好はかなり目立つものである。こ汚いミリアはともかくとして、軍
服に燕尾服姿の二人はどう考えても注目のまとだ。
「では、三人ともまたウサギに変装するか?」
 ゲンブが背中に背負ったリュックを肘で刺した。一応、ウサギの着ぐるみとバニースーツは持
ってきてある。
「うーん、そうしようか」
「言っておくが、誰が着ぐるみを着るかはくじ引きであるぞ」
 前回、着ぐるみでひどく暑い思いをしたゲンブがきつい口調で釘を刺した。2/3の確率で起
こる危険事態をまったく考えない発言である。
「あらあら、もう来たわね」
 後ろでごちゃごちゃと相談する二人を押しとどめ、セイネが前をキッと見据えた。深紅の軍服
姿の男が六人。全員サーベルで抜刀して周囲を取り囲んでいた。深紅の軍服はレオリア共和
国の正式な軍服である。まるで火事でも起こったかのような情熱の色が眼前に立ちふさがって
いる。
「おい、そこのハーフエルフ!姓名と役職を述べろ!」
 その中の一人、隊長格の男が進み出ておきまりの台詞を放つ。セイネは少しも動じなかっ
た。軽く一礼すると、彼女はつつと前に進み出た。細身の長身が男たちの前に立ちはだかっ
た。
「どうしました、軍人さん。私はしがない旅の踊り子。決して怪しいものではありません」
 その割にその格好は怪しすぎる。
「なに、踊り子だと?ならば一つ尋ねたい。セイネという、バニー姿のハーフエルフについて記
憶がないか?」
「いいえ、そのような名前には記憶がありません」
 平然と、顔色一つ変えずにセイネは返答した。さすがというべき名優ぶりである。後ろでごち
ゃごちゃとやっていたゲンブとミリアの馬鹿二人も、その演技の巧みさに舌を巻いた。
「そのものがどうかしましたか?」
 軽やかな、春風のような笑いと共に、そっとセイネの手が男の肩を叩いた。
「はっ…いや…その、目下指名手配中でありまして…」
 いつの間にか、まるで上官に対するような口調に変わってしまった男は、少し視線を下げてう
つむいた。
「よろしければ、そのもののことを教えていただけませんでしょうか?踊り子として各地を回って
いる身ですので、何か思い出せることがあるかもしれません」
 軍人達の態度がやや軟化したのを突いてセイネは畳みかけた。彼らは一様にセイネの雰囲
気に惑わされていた。時には気品を持ち、時には妖艶な気配を醸し出す。まるで変幻自在の
神業である。
「主な罪状は、我々の同士六人に瀕死の重傷を負わせたことです。一昨日、ホーゲンドープ閣
下と共に随行した六人は、港でバニースーツの女に出会ったそうです」
「その女に軍人が六人も?」
「はい、我々の中でも最高の訓練を受けた強者達でしたが、たった一人のバニー姿の女にい
いように叩きのめされてしまったのです。その女、下品にけたたましく大口を開けて笑い、信じ
られないほどの力で我々の同士に負傷を負わせました」
「それが、セイネと?」
 少しだけセイネの声のトーンが尖ってきた。その後ろで、ミリアは自分をごまかすために向こ
うの方を向いて口笛を吹いていた。誰と勘違いされたかはもう明白である。
「同士の話では、高笑いで叫びながら、船の錨をまるで砲丸投げでもするように振り回してきた
そうです。積み荷の樽をまるで小石でも投げるかのようにぶつけられ、あげくのはてには同士
が持っていた僅かな持ち金まですべて奪われたそうです。ううっ…同士の無念を思うと私は…」
 じわっと軍人の目に涙が浮かぶ。一同が袖でその涙を拭った。セイネは冷ややかな目つきで
背後の姉を振り返る。
「姉さん…」
 セイネの責めるような視線が飛ぶ。瞬間、ミリアは脱兎のごとくダッシュして、涙にくれる軍人
達に襲いかかった。
「えい、この野郎、あたしの妹セイネをつけねらうとはふとどきな奴だ、こいつめ!」
 こみかめに冷や汗、目には照れ笑いを浮かべながらミリアは拳骨で兵士達を次々と倒してい
く。ゲンブとセイネは微動だにせずにその姿を浮かべていた。もちろん、二人とも、その偽セイ
ネが誰であったのかはとっくに気が付いていた。


「ひ、ふ、み…全部で金貨52枚とは結構持っているじゃないの」
 激闘3分25秒。気の毒な軍人達をすべてノックアウトして地面に転がし、いつもの通りにミリ
アは戦利品の徴収を始めていた。
「姉さん…そういう人として恥ずかしいことは止めて頂戴」
「あたしは人じゃなくてハーフエルフだから恥ずかしくないよ」
 会話を無理にすれ違えさせてごまかすと、ミリアは巻き上げた金貨をジャラジャラと袋に詰め
て腰にぶら下げた。
「結局、これではおたずねものよ。急いだ方がいいわね」
「急ぐって、どこかに当てでもあるのかい?」
「鉱山ギルドの総帥、ストコー技師を訪ねてみようかと思うのよ。私のこのステッキを創ってくれ
たドワーフ族の名工よ」
「むう、聞いたことがある。確か、シュトルガットの鉱山技師ドワーフを統括する長老だという話
だが」
 変態だが知識は十分にあるゲンブが口を挟んできた。ドワーフ族は森の妖精エルフに拮抗
する大地の精霊である。身長は人間より低く130センチほどで、男も女も筋肉質の頑健な肉
体を持つ。その体躯に似合わず器用であり、鉱山技師や職工などの、力と技の両方を使用す
る分野で重宝されていた。この鉱山の市であるシュトルガットには多くのドワーフが集まってき
ている。
「そうよ。シュトルガット市の影の支配者とも言われているドワーフよ」
「そいつに会って、どうする気だい?」
「まずは、エスナのことと、皇子様のことを尋ねないといけないわ」
 ミリアもゲンブもこの町のことについてはそれほど詳しくは知らない。土地勘のあるセイネに
従って、一行は町の中を通り過ぎていった。町の大通りは南北に通り、東西は鉱山のある
山々に挟まれている。その山の西側の麓にシュトルガットの行政府が置かれ、東側には職人
達の店が連なっていた。
 職人達の店の一件でセイネは足を止めた。大店と大店の間に挟まれた隙間にある小さな入
り口。扉を開けるとまるで坑道のような回廊が奥へと続いている。ストコー技師はかなりの偏屈
故にそうしているのだと二人はセイネから聞かされた。回廊は進んでは曲がり、進んでは曲が
っている。家と家の隙間を利用して創られた特殊な回廊である。
 しばらくいくと、阿片窟を連想させる、薄暗い小さな広間に出た。床には鍛冶屋道具が散乱
し、部屋の中では金槌の音が高らかに響いている。いったい何歳なのか解らない、白髪に長
いヒゲを伸ばした老人のドワーフが金属を鍛えるためにハンマーを振り下ろしていた。
「ストコー技師、お久しぶりです」
 この場の主導権を握るセイネがシルクハットを取って一礼する。
「おう、セイネか。さては、皇子を奪われて、再度奪還しにきおったな。このショタコンの淫乱ス
ケベーめ」
 ドワーフの老人は顔をさっと上げると、分厚い唇を剥いて少し意地悪そうな笑みを浮かべた。
「そ、そんな…ひ、人聞きが悪いことを言わないで頂戴」
 セイネが口元に手を当てて、顔を半分逸らした。しかし、微妙に頬が赤くなっているのは、そ
の言葉が事実を突いている証明である。
「じいさん、なかなかいいこと言うじゃないのさ」
 セイネがひるんだ隙に、ミリアはさっと前に進み出てドワーフの技師を見下ろした。別に、い
いことを言っているわけではない。
「なんだ、セイネ、このこ汚い奴は」
 いきなり現れた、みすぼらしい姿の女戦士を見て、ドワーフ技師ストコーは不思議そうに視線
をやった。ピキッ、とミリアの右こみかめに青筋が走る。
「ほう、この口か、そういうことを言うのは」
 まるで万力ででも締め付けるかのように、ミリアはドワーフの分厚い唇を右手で軽々とねじっ
た。
「痛い!痛い!痛い!止めんか!」
「姉さん、止めてあげて頂戴」
「ちっ、しょうがないねぇ」
 血相を変えたセイネが慌てて間に入る。ミリアはまるでゴミでも投げるように、ドワーフの筋肉
質の体を床に投げ出した。
「な、何、姉さんだと?まさか、貴様のようなこ汚い奴がセイネの姉というのか?」
 落下の時に打った腰をさすりながら、一言多かったドワーフ技師はセイネの方に向き直る。
「おい、どうなんじゃ」
「残念ながら、本当よ」
 少し沈んだ、しかしよく通る声でセイネは返答した。ドワーフ技師はガックリと肩を落として大
きくため息をつぐ。
「ふう、もう世の中真っ暗じゃ。セイネの姉がこんな汚い奴とは思わなかった」
 まるですべての希望が失われたかのように言うドワーフ技師。しかし、そんなに失望するべき
ことでもあるまい。
「おい、なんだよ、おっさん。あんた、あたしに喧嘩売ってんのか」
 相次ぐ不謹慎な発言に、機嫌を損ねたミリアはドワーフ技師の胸ぐらを掴む。
「姉さん、止めてあげて。ストコーは口は悪いけれど、悪気はない人なのよ」
「その割に、あんたとあたしでは言われ方の差が随分あったよ」
 ブツブツ文句を放ちながらも、ミリアはおとなしくストコー技師を離すとその場に座り込んだ。
「おい、ドワーフのおっちゃん、さっきの詫びに酒くらい出してよ」
 あからさまな要求をすると、それでもストコー技師は欠けた茶碗に酒を継いで持ってきた。確
かに、それほど悪い奴ではなさそうである。
 一応形通りに杯を交わして、一同は本題に入った。問題はアレク皇子のことである。セイネ
は今までのことを手際よく話した。その間、ミリアとゲンブは酒瓶をラッパで回し飲みしていた。
「アレク皇子のことか。うむ、捕まっている場所も知っている。エスナめ、いよいよ、【虫眼鏡作
戦】を決行する気じゃ。ワシの弟子達もほとんどエスナが連れて行ったわい」
「【虫眼鏡作戦】ですって?」
「うむ、既に打ち上げの高射砲に火薬弾の準備も九分九厘完成した。あとはアレク皇子を大砲
に詰めて、バランヒルトの帝都ドレッドに向かって射出するだけじゃ」
「おい、なんだよ、おっちやん。その、人間爆弾みたいな物騒な計画は」
 ストコー技師とセイネの間に交わされるとんでもない会話をミリアは耳ざとく聞きとがめた。真
面目な顔の二人の間に耳がニョキッと伸びて割って入った。器用な耳である。
「うむ、バランヒルトの歴代皇帝に、特殊能力があるのを知っておるか?」
「いいや、全然」
 あっさりとミリアは首を振って否定してくれた。ストコー技師はガックリ顔を落としたが、それで
は話が始まらない。この頭の悪いハーフエルフにも理解できるように、彼はなるべく話をかみ
砕いて説明し始めた。
 アルモラード大陸の中央を支配するバランヒルト帝国は古代三王国の一つと言われ、勇者ニ
コライ・アレイサーガの手によって建国された。三千年の長い歴史を誇り、その間皇帝は絶対
的な権力者として帝国に君臨していた。始祖ニコライは神にも等しい実力を持ち、その血統は
歴代皇帝にも受け継がれている。彼らはそれぞれ、人にあるまじき能力を誇った。現行皇帝の
ミハイルも、一切の魔法を無効化するという、おそるべき力を所持していたのである。
「皇太子アレクサンドルの持つ能力は、力を数千倍に拡大するという恐るべき能力なんじゃ。
本人は何の力も持たない子供じゃが、その存在は恐ろしい。太陽光を集める虫眼鏡みたいな
ものじゃ。エスナはその特殊能力に目を付けたのだ。皇子と共に、爆薬をくくりつけて、帝都ド
レッドに向けて落下させるつもりなのじゃ」
「するてっと、どうなるんだい?」
「普通の爆薬なら、掘っ建て小屋を吹っ飛ばす程度じゃ。しかし、それが数千倍に拡大されて
みろ。人口十万のドレッド市は一瞬で瓦礫の山となる」
「な、なんだって」
 エスナ・デ・リの計画に、さすがの一同も顔を青ざめさせた。ここまでのものとは考えられなか
った。しかし、これが戦争である以上は、エスナのやり方が本気である以上は間違いない。
「さすがは、レオリア共和国随一の将軍、エスナ・デ・リ・ホーゲンドープと誉めるべきなのかもし
れん。これはやり過ぎかもしらんが、ワシは奴を止められんかった。シュトルガット攻防の手前
から、ワシの部下のドワーフ達もすべて奴に接収されてしまったからな」
「そういえば御老人、レオリア兵は僅か一千でこのシュトルガットを落としたと聞いた。いった
い、どうしてそのような事が可能になったのだ?」
 茶わんで酒をすすりながら、ゲンブがナマズヒゲの顔をぬっと突き出してくる。
「うむ、エスナはわしの部下のドワーフを動員して、街の中央に落盤が起こるようにしておいた
のじゃ。その上に何も知らないバランヒルト軍がやって来て、陥没に巻き込まれてな…」
「な、なんと!」
「兵士達一万は見事に生き埋めじゃ。まったく、恐ろしい女じゃよ、エスナ・デ・リという奴は」
 その場にいる全員がうーむという声を上げて顔を見合わせた。もっとも、まともに感心してい
るのはゲンブだけで、ミリア姉妹は別の理由で感心していた。
「まさか、あのブスデブエスナにそんな知恵があったなんて…」
「そうだよねぇ、クラスでもドベから二番目の成績だったくせにさ」
 もちろん、余裕でビリッケツだったのが誰かは言うまでもない所である。
「よし、セイネ。とっととエスナをブッ叩いて懲らしめようよ。いや、懐かしいね。子供の時に、随
分ゲンコツで奴を殴ったもんだよ」
 猫目を細め、握り締めた拳を高々とミリアは掲げた。しかし、それは懲罰ではなくてただの苛
めである。
「おお、お前たち、エスナ・デ・リに歯向かおうというのか!」
 ストコー技師は驚いて椅子からけたたましく立ち上がった。ドワーフ特有の野太い声が割れ
鐘のように響く。
「そうだよ。あいつ、あたしたちに賞金くれなかったんだ」
「皇太子アレクサンドル様をお助けしなければならないの」
 姉妹は口々に自分達の抱負を語った。こうして文字にするとセイネの方が立派に聞こえる
が、とどのつまりは姉は金、妹は色による行動理念である。
「そうか。ならば、わしもとっておきの武器を出すとしよう」
 ストコー技師はそういうと少し身を引いた。そして、工場奥の岩窟に立て掛けてある、一本の
ハンマーを指差した。
 それは、鍛冶屋が剣を鍛える時に使うものに似ていた。柄の長さは一メートル半ほどはある
だろうか。それと一体成形になった先端部には、握り拳大の金属塊がある。
「これは、このワシが全ての力を注いで鍛えた最強のハンマーじゃ。普通のハンマーよりも強
度が百倍になっておる。使いこなせるなら持っていけ」
 ぞんざいにそのハンマーを指差すと、ぶっきらぼうにストコー技師は椅子にふんぞり返った。
「なに、おっちゃん、これくれるの?」
 何げにミリアが進み出て、ハンマーの柄をしっかりと握る。
「おう、持っていけるもんなら持っていけ」 やや挑戦的な口調でストコー技師が言い放つ。キラ
リ、とその眼が意地悪く光ったような気がした。
「じゃあ、ありがたくもらうか」
 ミリアはひょい、とハンマーを片手で取って肩に担ぐ様にして持った。瞬間、なぜかストコー技
師の眼が丸くなる。
「な…なな…」
「で、おっちゃん。エスナとあのクソガキ皇子の居場所はどこだよ?」
「む、むう…以前の鉱山省の役所を本陣にしておるが…」
「じゃあ、とっとと行くとしようよ」
 特に変わった様子も見せず、たいした礼も言わず、ミリアはこの場を立ち去ることを促した。
特に反対される理由もないので、素直に二人は従う。ぞろぞろとその場を立ち去る三人。後に
はポツンと一人、呆然とした顔のストコー技師のみが残される。
「ふう、恐れいったわい。まさか、あのハンマーを持てる奴が居るとはの」
 信じられないという口振りで、ストコー技師は茶わんに残った酒をチビチビと啜ってつぶやい
た。
「あのハンマー、強度は確かに百倍だが、重さも百倍あったはずなのだがな…」