陽の射し込む濡れ縁に、老人は腰掛けている。
晴天の少ない一月の、珍しくよく晴れた昼下がり。冬の日差しは、季節柄の薄暗さに慣れた目には、鋭く突き刺さってくるように感じる。
端から見ると開けているのか開けていないのかわからない、老人の小さな金壺眼は、庭先でほころんでいる黄色い小さな花に向いている。
「お前さん、お茶が入りましたよ」
後ろで声がして、老人は短髪の白髪頭をもたげ、振り向いた。老人の細君が茶盆を手に、老人の斜め後ろに座った。
「どうぞ」
「ん」
老女の差し出す茶を、老人は一言うなって受け取り、また庭を見やった。
うららかな日差しを顔に受け、温かい緑茶をずずっと啜る。いかめしい表情とへの字に結んだ口元は変わらない。
「今日は風がなくて暖かいですねぇ」
「ん」
話しかける老女に、老人は一言だけうなって答えた。
不意に、老女がせき込んだ。苦しげに胸を押さえ、こほっ、こほっとしばらくの間せきをすると、治まってほっとしたように、蒼白い顔を太陽に向けて陽を浴びた。
「寝とけ」
老人が振り向きもせず、短く言った。
「いいじゃありませんか。せっかくのいい日和なんですから」
老女は夫の傍らで、夫と同じように庭木の黄色い花を見やった。
「蝋梅が咲きましたね」
老女はふと、老人の湯飲みの茶が空になっているのに気がついた。お変わりのお茶を注ごうと急須を取ると、茶はすでになかった。
彼女が台所に立とうとすると、不意に老人がのそりと立ち上がり、茶盆を手に取った。
「わしが、入れてくる」
ぼそりと低い声で言うと、そのまま台所へと引っ込んでいった。
老女は血色の薄い顔に優しい笑みを浮かべ、ひとり庭を見つめた。
少し、風が立った。蝋梅の枝がほんの少し揺れた。