エピローグ
 
「それで、出発はいつになるんだ?」
 オレの問いにリサはどこか吹っ切れた表情で答えた。
「遅くても明後日にはここを発つつもりだ。‥‥言っておくが、あくまでラルの顔を立てるためだ
ぞ。僕は部族に戻るつもりはない」

 あの戦いから数日が過ぎていた。
 オレの捨て身の攻撃で戦車が倒されたことで、あのデュラハンもどきは完全に破壊された。
後で親父に聞いたところ、おそらく、突然変異か、人為的に生み出されたデュラハンの亜種で
はないかということだった。まあ、こういった例は決して少なくないし、倒された今となっては、真
相を知るすべはないのだが。
 その後、ラルグとリサは改めて話し合った。ラルグのことこそ覚えていたリサだったが、やは
り子供の頃の他のことは、ほとんど覚えていないこともあって、帰ることに関しては難色を示し
ていた。しかし、本人曰く「ラルの顔を立てて」部族にいったん戻り、後のことは話し合って決め
るというオレが提案した形で落ち着いた。まあ、巻き込まれる形になったとは言え、デュラハン
もどきとの一件は、2人がお互いのことを再認識できたという意味では結果的にはよかったと
いえるだろう。
 しかし‥‥、

「なあ、本当にやるのか?」
「あたりまえだ。僕の帰省問題と、お前との勝負の件はあくまで別だ。それに、『別れの挨拶代
わりにやるのもいいか』と言って承諾したのはお前だぞ」
 やる気満々でそう言うリサに、オレは軽くため息をついた。
 ここはパルサー邸の中庭。すでに、審判役のトキオ兄さんを始め、パルサー家の面々とラル
グ、ロムからなるギャラリーは今か今かと待っている状態だ。
「頑張れよ、リサ」
 声をかけるラルグにリサは軽く微笑み返した。ようやくスタート地点に戻った2人がこれからど
うなるのかはわからない。でも、この様子ならきっと大丈夫だ。そう確信すると、オレは気を取り
直して剣を構えなおした。
「よし、それじゃあ、行きますか!」
「やっとやる気になったか。僕はいつでもいいぞ」
 リサも身構える。
「準備はいいようだな」
 そう言って兄さんがゆっくりと右手を上げた。あれが振り下ろされれば勝負開始だ。
「それでは、一本勝負‥‥」
 そして、それがこの事件の終わりと、二人の友人の再スタートの合図だ。
 「始めぇぇっ!」

                パルサー家冒険記外伝   完



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