その1 旧友相対すのこと


「ふーん、『シュトルガット陥落!バランヒルト皇帝ミハイルは生死不明!皇太子アレクサンドル
は捕虜!レオリアの名将ホーゲンドープの前に帝国軍為すすべなし』かぁ。随分派手な戦争っ
ぽいね」
 安宿の一階、これもまた安い酒場の片隅で、貧乏くさい女がおとといの新聞をさも興味深そう
に眺めていた。その耳は獣のように長く尖り、目はくるっとした猫目につり上がっていた。特徴
的なハーフエルフの外見である。
「両国の争いは随分熾烈だそうだ」
 女の向かいのテーブルに座り、ちびた煙草に楊枝をさして貧乏たらしく吸う軍服姿のムサい
中年が紫煙を吐き出しながら相づちをうつ。
「よっしゃ、ゲンブ、今がチャンスだよ。あたしらの力を売り込む時が来たぞ」
 バンと古新聞をテーブルの上に置いて、女は立ち上がった。所々継ぎの入ったオンボロの革
鎧が惨めったらしい。背中に背負った、鞘が半分壊れて刀身ががはみ出している片手剣もか
なり悲惨なものである。
「最近戦争も無くて、飯の食い上げだったからね。いや、戦争っていいね」
 他人とはまったく違う感覚で雄叫びを上げると、ハーフエルフは大きくうれしそうに背伸びをし
た。惨めったらしい格好はしていても、こいつは凄腕の戦士なのである。
 ミリア・カジネットはハーフエルフの剣士である。腕前は抜群で、パワーとスピードの両方を兼
ね備えた、女だてらに役に立つファイターである。
 しかし、こういう力押しの戦士の例に漏れず、頭の中身は恐ろしいほどスッカラカンであった。
当年取って百五十三歳。しかしその年齢のわりには知恵と分別はゼロである。生活は完璧な
までに破綻し、借金しては宴会という悪循環の生活を延々と続けてここまで落ちぶれていた。
当然、金などまるきり持っちゃいない。
 そんな奴に戦争は渡りに船であった。パワーだけはあるのだから、傭兵として雇われれば飯
の食い上げがない。
「しかし、それには一つ問題があるぞ」
 軍服を着た中年のゲンブは、不気味なナマズヒゲを捻りながら指をビシッと突き出した。
「拙者らには、戦地まで行く路銀がない」
 ゲンブはきっぱり言うと、軍服の懐から巾着袋を取り出した。彼の着ている二〇世紀初頭風
の軍服は、遥か東方の「日出づる国」と呼ばれるジャポネ帝国の通常装備である。黒髪に、頭
の後ろで結んだチョンマゲは、彼がいわゆるサムライと呼ばれるタイプの戦士でであることを
示していた。
「あんた、どれだけ持ってる?」
「これだけだ」
 ゲンブは巾着袋を机の上に広げた。チャリンと情けない音がして、銅貨が三枚とオハジキが
転がった。ほとんど子どものおもちゃ袋並である。
「なんだ、結構あるじゃん。自慢じゃないが、あたしなんか文無しよ」
 本当に自慢にならないのに、腰に手を当ててミリアはカラカラと笑った。現金なんかここ数ヶ
月持ち歩いちゃいない。唯一の仕事であったモンスター退治からも見放され、最近は市場でク
ズ野菜を拾ってはむさぼる生活が続いている。
「よし、この金で現地までいくぞ!」
 銅貨三枚を握りしめて、無謀にもミリアは宣言した。ゲンブは半分口を開けたあきれ顔で、こ
のハーフエルフの女を見上げていた。
「貴殿、そうは言うが、銅貨三枚ではダイコン一本くらいしか買えんぞ」
「上等だよ。ダイコンを食って食料にすりゃいいじゃないの」
「海はどうする気だ。アルモラード大陸に行くまでには船が必要なのだぞ」
「泳げばいいじゃん。もうすぐ夏だから、海水浴にでも行くと思えばさ」
 しれっとミリアは言い、ゲンブは「おお、ブッダよ」と絶叫しながら天を仰いだ。いま居る港町ガ
ダルから戦地までは、船で四日はかかるほどの、大きな海が広がっている。いくら夏が近いと
はいえ、泳いで渡れるような距離ではない。
「よし、そうと決まったら出陣だ。とっとと用意しなよ、ゲンブ」
「なに、拙者も付いて行くのか?」
「別に残ってもいいけどさ、その場合あんたの銅貨はあたしが没収だ」
「そ…そんな…無体な」
「文句ある?」
 ジロリと猫目の端に鋭い眼光を寄せてミリアはゲンブをにらんだ。かなりマジである。ゲンブ
はそれ以上の言葉を失った。こういう時危険である。逆らったら何をされるかわからないこと
は、身をもって十分に承知している。
「も、文句はござらんが…ああ、拙者がせっかく便所掃除をして手に入れた銅貨が…」
 ほとんど金にならないが、それでもアルバイトをゲンブはしっかりしていた。酒場の便所掃除
一回で銅貨一枚。なんとかそんなことをしながらも、このサムライは生き残ってきたのである。
「うう…仕方がない…付いていくしかないのか、拙者は…」
 悲しい顔でゲンブはテーブルに肘をつくと、大きなため息を付いて首を垂れた。銅貨三枚に
固執しなければならない人生もかなり悲惨である。
「ええい、グチグチ言うなよ。とにかく、こうでもしないとあたし達は生活できないんだ!」
「別に、拙者だけなら便所掃除のバイトで食いつなげるのだが…」
 至極当然の意見をゲンブは言ったが、もちろんミリアはそんな意見を右から左に素通しして
いた。耳と耳の間に、邪魔をする中間物質が無いと聞き流しも簡単である。
「さて、細かい問題は終わり!問題は、どっちの国に着くかということなんだよね」
 決して細かくない問題を強引に終わらせると、首を捻ってミリアは考え始めた。長く伸びた耳
がヒクヒクと動いていた。どうやら、感情の変化で動くらしい。
 南方のアルモラード大陸で争っているのは、レオリア共和国とバランヒルト帝国の二国であ
る。かたやここ数十年で勃興し、軍隊改革を行って勢力を次々に拡大した共和国。一方は千
年王国の名を持ち、数千年の長きに渡って皇帝の元で専制政治が行われてきた由緒ある帝
国である。
「ゲンブ、どっちがいいと思う?」
 ミリアは、まだ惨めったらしく愚痴を言い続けているサムライをチラリと見やった。ゲンブは貧
乏たらしく見えるが、知力はたいしたものである。東方の戦士サムライは並の戦士とはまるで
違う。学問を修めた、参謀としての能力も備えるインテリなのである。
「まあ…本来は、勝っている方に荷担するのが確実であろうな。しかし、それでは旨味が少な
い。新聞を読む限りでは、帝国の方が危機のようだ。ここで帝国の窮地を救えば我々は英雄
だ」
「なるほど、そして、報賞金もガッポリって訳だね」
 キラリとミリアの目が欲深そうに光る。家賃滞納は悠に数年。もはや大家も取り立てることを
諦めている。市場での野菜クズあさりも板についてきた。時々路地で子どもから駄菓子をせび
ることもある。段々知的生物として危険な方向に傾いてきた今日この頃、とっとと一山当てて、
こんな生活からは脱却したい。
「よし、あたしはバランヒルト帝国に行くぞ!帝国の窮地を救うんだ!」
 拳を握りしめて突き出し、高らかにミリアは宣言した。昼下がりの、ゲンブと酒場の主人以外
は誰もいない空間に声が響く。言葉だけを聞けば立派だが、実は私利私欲にまみれた宣言で
ある。
「それは、我らが革命のために止めていただきたい」
「は?」
 不意に聞き慣れない女の声で水を差され、ミリアは毒気を抜かれて間抜けな面になった。
「ミリア・カジネットほどの実力者に荷担されては、我らが自由世界の確立が危うくなる」
 やけに大仰な台詞を言いながら、一人の女が深紅のマントを翻して酒場に入ってくる最中で
あった。銀髪に黒髪がストライプに混じる長髪をたなびかせ、膝の辺りまである革ブーツの足
音を軽快に響かせていた。
 彼女は緑色の軍服に身を包んでいた。胸のあたりには高官を思わせる勲章がいくつも下が
っている。顔の部分はフードに覆われていてよく見えないが、ちらりと褐色の肌色が隙間から
のぞいていた。
「誰だよ、あんた?」
 まるで理解できないと言うふうに唇を突き出し、怪訝な表情でミリアは突然現れた軍服の女を
見つめる。
「そ、その軍服は…貴殿はホーゲンドープ将軍ではないか!」
 とっさにその人物の正体にゲンブは気づいた。彼は素早く飛び退くと、腰に付けていた日本
刀を抜きはなって構える。
「落ち着きたまえ。私は別段戦いにきたわけではない。話し合いにきたのだ」
 刀を構えたゲンブに顔を向けると、彼女は右手を上げて、落ち着けとのゼスチャーをした。
「ホーゲンドープだって?あんた、いったい何者?」
 先ほどまで新聞を読んでいたとは思えないほどの忘却ぶりで、ミリアは目の前の女をじろじろ
と見つめた。フードの側頭部に切れ目があり、そこから長めの耳がはみ出している。どうやら、
この女もハーフエルフらしい。
「今はレオリア共和国の将軍ホーゲンドープ。しかし、この顔を見ればわかるだろう」
 怜悧な声で言い放つと、女はファサッと被っていたフードを取り払った。鋭くつり上がった獣の
ような目つきに、茶味がかった肌の色。白髪交じりのようにも見える髪だが、顔はまだ若い女
のものだ。
「は?いや、やっぱりわからん」
 半分口を開けた間抜けな顔でミリアは首を傾げた。ズルッと目の前の女が滑り転がる。無理
もないが、ミリアの頭では仕方がない。なにしろ、さっきまで読んでいた新聞の内容さえ忘れる
ような頭の持ち主である。
「私はエスナだ!エスナ・デ・リだ!」
 床から肘を擦って立ち上がりながら女が叫ぶ。それに反応するように、ミリアは首を縦に振っ
た。
「あ、なんだ。エスナだったのか」
「ようやく思い出してもらえたようだな」
「で、エスナって誰だっけ?」
 再度、ズルッとバナナの皮を踏んで滑ったように、大きく股間を開いて軍服女は酒場の床に
転がった。
「お、思い出したのではなかったのか!」
「いや、あんたがエスナってのは解ったけれど、そいつが何者なのかどうも思い出せないんだ
よね」
 馬鹿明るい笑いを浮かべてミリアは少しだけ照れくさそうに頭をぼりぼり掻いた。後頭部には
伸び放題になった髪がまとめられて筆のようにぶら下がっている。
「貴様、幼なじみの顔も忘れたのか!」
 眉間を寄せて、きつい表情をさらに厳しくして軍服女はミリアをにらみつけた。しかし、相手が
ぼけっとしている以上、緊迫感も何にもない。
「幼なじみ…ああ、あんた、あのエスナか!」
 ようやく思い出したという風に、ポンとミリアは手を叩いた。ピンとばかりに長い耳が立つ。や
っと、思考のシナプスが脳味噌の中で繋がったらしい。
「いやあ、ブスでデブでクラスのいじめられっ子だったあんたが、よくもまあ、変わったもんだ
ね。すっかり美人になっちゃってさ。さては顔面変形の魔法でも修得したのかい。いや、人間っ
て変われば変わるもんだね」
 かなり失礼な事を平然と言うと、ミリアは両手でエスナの顔を掴んでは引っ張り始めた。端正
な顔が汚く歪む。
「止めろ、何をする!」
 慌ててエスナは右手でミリアを振りはなった。まあ、当然の反応ではある。
「いやぁ、本物の顔かなぁって思って。あんた、あんなにブスだったからさ。どうも信じられない
んだよね」
 カラカラと笑いながら、悪びれもせずにミリアは言い放った。エスナはすっかり毒気を抜かれ
て憮然とした顔でいた。
「ミ、ミリア。貴殿はあのホーゲンドープ将軍と知り合いというのか?」
 少し離れた場所でゲンブが間合いを保ちながら震える声で伺った。無理もない。レオリア共
和国の将軍である、エスナ・デ・リ・ホーゲンドープ将軍の名前は四海に轟いている。ダークハ
ーフエルフでありながらレオリア共和国の軍権を掌握し、次期大統領の呼び声も高い大物であ
る。スピードの剣技と闇の魔法を使いこなし、攻守に優れた完璧な武人として聞こえていた。
「あ、そういや、エスナってそんな名前だったねぇ。今の今まで忘れていたよ」
 そう言ってミリアは照れ笑いをした。しかし、明らかに思い出してない顔である。
「で、いったい用件は何さ。まさか、自分が整形で美人になったことをこのあたしに自慢しに来
たんじゃないだろうねぇ?」
 ものすごい一方的な解釈でもってダークハーフエルフの顔をのぞき込むと、ミリアは側のイス
に腰を下ろした。併せてエスナもテーブルに着き、両者は正面から向かい合った。緊迫とおち
ゃらけと雰囲気がテーブルの両端に沸き上がる。
「用件は一つ。バランヒルト帝国に荷担するのを止めて欲しいのだ」
「何言ってんだ。あたしは傭兵だぞ。金になればなんでもするさ」
「ほう。金が自身のイデオロギーとは寂しい奴だ」
「はぁ、コオロギ?どっちかっていうと、コガネムシの方が金に近くないか?」
 一瞬、時間が止まり、エスナは机にガンと音を立てて突っ伏した。そして慌ててミリアの顔を
まじまじと再度見つめた。間違いなく、そこには疑問の表情でこちらを伺う、貧乏な剣士の姿が
あった。本当にミリアはイデオロギーとは何か解っちゃいないのである。
「…まあ、細かい話は置こう。金なら出そう。だから、バランヒルトに荷担するのは止めて欲しい
のだ」
 諦め顔でエスナは言うと、懐から硬貨の詰まった袋を取り出すと机の上に置いた。ドサッとて
重たそうな音が響く。
「貴様がバランヒルト軍を支援しないならば、これはそっくりやろう」
「なっ、これ、金貨じゃないか。いや、もう、わかったよエスナ。親友の頼みだ。バランヒルトなん
ていうクソッタレな国の応援なんか止めるよ」
 そこの国民が聞いていたら激怒しそうなことを平然と言って、あっさりミリアは承諾した。そし
てさっさと金貨袋を自分の方に引き寄せた。かなり浅ましい根性である。
「もう、まかせておきなって。何があろうとあたしはバランヒルトの味方なんかしないからさ。も
う、泥船に乗った気分で居てよ」
 まるで確証にならない比喩表現をすると、ミリアは親指を立てて了解のポーズを決めた。肩
の荷が下りたようにエスナが息を継ぐ。
「ふう、ならば、この話はこれで終わりだ。私はまた、前線に帰らねばならん」
 深紅のマントが音を立てて揺れ、彼女は立ち上がった。きりっとした立ち居振る舞いは訓練さ
れ尽くした軍人のそれである。
「ありゃ、用はそれだけか?」
「うむ…では、もう一つ聞いておこう。貴様のところに、セイネがやってこなかったか?」
 不意に顔をしかめると、エスナは腰を落としてミリアの長い耳の中に向かってぼそぼそと話し
かけた。
「セイネだって?いったい、何があったんだよ?」
「実はな、我々が捉えたバランヒルトの皇子がセイネによって奪取されたのだ。なんだ、セイネ
の行き先にでも心当たりがあるというのか?」
「いや、セイネって…どんな奴だったかなぁって」
「貴様、まさか自身の妹を忘れて…」
 信じられない、という顔でエスナは横目でミリアを睨んだ。相棒のゲンブさえも不信な視線を
向けている。こういうときはかなり気まずい。
「あっ、そうね!思い出したよ。セイネ、セイネね。そういう奴もいたよ、うん」
 どう考えても思い出してない顔つきでミリアは相づちを打った。エスナはそんな旧友の態度に
はまるでかまわず、言葉の先を続けた。
「我々は鉱山町のシュトルガット市を落とし、皇子アレクサンドルを捕虜とした。しかし、我々の
隙を突いてセイネが地下牢に進入したのだ。奴は電光石火の勢いで皇子を奪って逃げた。ア
レクサンドルはバランヒルトの皇太子だ。奴を捕虜としているかどうかで、今後の戦況は決まる
と言っても過言ではない。もしや、姉である貴様のところに来ているのではと思ったのだがな」
「いいや、最近来る奴はみんな借金取りばかりだよ」
 苦笑いを浮かべながらミリアは首を振った。こんな貧乏剣士の所を訪れる奴なんて金貸しくら
いなものである。もっともそいつらはたいていコテンパンにされて、ほうほうの呈で逃げ帰る羽
目になるのだが。
「そうか。我々はそのアレクサンドル皇子を捜している。見つけて連れてきたものには賞金が
一万金貨だ」
「な、なに、一万!」
 あまりの金額にミリアは目を丸くした。無理もない。金貨は銅貨の百倍の価値である。既に金
銭感覚としてはベラボーな額だ。
「来たついでに手配書を置いていこう。何かあったら私に知らせてくれ」
 あっけに取られるミリアに一瞥をくれると、エスナは丸めた手配書をテーブルの上に投げ出し
た。羊皮紙に書かれた立派な筒を置いて、さっそうとエスナは退場していく。
「一万…一万金貨?」
 ガラガラとミリアの頭の中で何かが崩れていく音がした。なんということだ、それだけあったら
借金返してホストクラブにだって行けてしまう。
「一万、一万金貨…」
「おい、ミリア、どうしたのだ」
 ブツブツつぶやき続けるミリアの背後から、ゲンブがムサいナマズ面でのぞき込む。
「どうもこうもないよ、一万だよ、一万!こいつは凄いチャンスが回ってきたぞ。いや、さすがは
セイネだ。あたしに内緒でそんなことをやらかすとは、さすがはあたしの…」
「ちょっと待て。拙者にはどうも話が見えてこん。そのセイネというのは何者だ。貴殿の妹か何
かなのか?」
 喜色満面ではしゃぎ続けるミリアを制して、ゲンブはそのムサい面をきりりと引き締めた。確
かに、先ほどまでは知っている人間の間で勝手に話が進んでいた。これでは当事者以外には
よくわからん。
「ふぁ?」
 数度首を捻りながら、やけに気合いの抜けた声を発すると、ミリアはまたもや照れくさそうに
後ろ頭をぼりぼりとひっかいた。
「いや、どうも、セイネが何者か、思い出さなきゃならないわ。話はそこからだね」
 次の瞬間、見事にゲンブは頭をテーブルにぶつけて撃沈した。話が見えないのも当たり前で
ある。当事者でさえ、人間関係が把握できていない。
「ええと…たぶんあたしの妹で、ハーフエルフで、耳が長くて…」
 延々とミリアは思い出そうと苦悩し続ける。半分以上諦めた顔で、ゲンブはそんな相棒の顔
を見守り続けた。その日はとうとうそんなことで無駄に終わってしまったのである。

(続く)その2 すんばらしい変装のこと