その八 祖父よ貴方は若かった


「あ!あの時の美形なバカ」
「げっ!テメエはあの時の女!」
 ミリアとヤードの視線がぶつかり、両方は同時に叫んだ。一気に殺気が周囲を覆う。まるで今にも飛びかからんばかりの雰囲気である。
「世界を減ぼそうとしたヤードがあんたなの?」
 少しだけ驚きを顔に浮かべてミリアはこの優男を上から下まで眺め回した。厚手の黒い長袖の上に、筒素な革製の胸当て鐘を付けただけ の軽装である。これがあの、世界を動乱の渦に巻き込んだヤードなのだろうか。
「いかにもオレがヤード・アドルフ・カジネットよ。ほほう、貴様みたいなクソエルフがオレの名を知っているとはな」
「知っているよ。なにしろあたしはあんたの孫だからね」
「孫?ジェームズの次女のエスタか?」
「違う!」
 ミリアは即行で否定した。というか、それは誰だ。従姉妹にもそんな名前は聞いたことがない。
「ええと、どの子の子なんだ、お前…」
 無類の女好きであったヤードには子供が沢山いるのである。自分の子供でさえよく知らないのに、孫の名前までイチイチ憶えちゃいない。
「あたしはヘンリーの長女だっ」
「ヘンリーの娘…あいつに娘なんていたか?」
 首をかしげる。どうもヤードの記憶にはないらしい。
「ここにいるわい!ミリアの名を忘れるとは、あんたはそれでもあたしのじいさんか!」
「ミリア…ああ、あの憎たらしい馬鹿カ娘か」
 思い出したらしく、思い出すのも忌々しいという顔でヤードが咳く。
「だれが馬鹿力娘だ!」
 馬鹿にパワーを足す。それはミリアである。
「お前のことだ。オレが子守をしていると、いつもハンマーで頭を殴ってきやがったのがお前だった。どんなガキになるか恐ろしかったぜ。そ の結果がこれかよ」,
 ヤードは汚いものでも見るようにミリアを一瞥した。引き続いてマスターがジロリとミリアを見る。
「あんた、そんなことをしたアルか。本当にとんでもない予供アルな」
 あわててミリアは弁解をする。
「いやさ、あのハンマーはオモチャだったんだ」
「ああ、たしかにオモチャだろうな。鍛冶屋のハンマーをお前は盗んで来てそれをオモチャにしていたもんな」
 三歳児の魂百までもとは言ったものである。要するに、昔からムチャクチャで乱暴だったというわけだ。
「子供のしたことじゃない、ね〜、じいさん」
 いまさらのように媚びを売ろうとしても、何かが違う。
「いいや、許さんぞ!オレはいつかあの仕返しをしようと思っていたんだ!」
 ヤードはまくしたてる。そして、どこか論点がずれている。
「ほう、そういうことを言うのかい。だったらこっちもあんたの首を取ってやる。そうすれば国王が金貨一万をくれるからねっ」
 先程の口調は既にどこ吹く風。あっという間に熱くなってミリアも対抗する。
「いくよっ」
 ミリアは素早く腰の剣に手を回して抜き放った。質流れで買ったポンコツを両手で握り、体の前でしっかりと構えた。こいつは本気だ。
「な、なんだそりゃ!金貨1万っていうのは?」
「問答無用だっ!」
 しかしミリアは耳は長いが聞く耳を持たなかった。
 それが戦闘開始の合図となる。パッと両者とも後ろに跳んで退いた。互いに剣を抜き放
ち、相手の間合いをうかがう。
「コラ!店で喧嘩してはダメアルね!」
 マスターがわめくが両者とも知ったことではない。もはや、飢えた野獣の如くに相手の隙を狙うだけだ。
「いくぜっ!」
 先手を取ってヤードが跳躍した。一気に勝負をつける戦法である。美形は剣を構えたまま急降下する。
「ひょうっ」
 気合いの声と共に鈍い金属音が響く。
「な、なにっい!」
 次の瞬間にヤードは目を丸くしていた。ヤードの剣はミリアによって易々と受け止められてしまう。
「げっ!オレの剣を止めるとは…」
 ヤードの自信は瞬時に動転に変わった。いくら腕は立つとはいえ、所詮彼は魔法も剣も使えるだけの存在に過ぎない。一流の戦士にはや はり及ばないのだ。
「この程度かい?まだゲンブの方が鋭いよっ」
 そうやって剣を合わせたまま両者は向かい合う。亙いに次の攻撃を狙っているのだ。
 しかし、動揺した分だけヤードには精神の乱れが生じた。フッと気がと緩むと剣が力を失って身体のバランスが不釣り合いになる。
「うげっ!」
 相手の胸元へ身体を滑り込ませようとしたヤードには大きな隙が出来た。その一瞬を狙ってミリアの蹴りがヤードのわき腹に決まる。
「ぐ…ぺっ…」
 わずかに血混じりの唾液がヤードの口からこぼれた。ミリアの怪力で蹴り飛ばされてはたまらない。
「く、くそっ。これぐらいで…へばってたまるか…」
 わき腹の激痛で気が遠くなりそうになる。ヤードは自分が倒れそうになるのを精神力でかろうじて押さえていた。
(つ…強い!)
 そしてヤードは大きな恐怖を感じていた。どうしてだと思った。自分はあのフィルデさえ恐れさせた魔法剣土だ。なせこのようなハーフエルフ ごときに負けるのだ。
「わはは、そんなものかい。それでもあたしのじいさんとはチャンチャラおかしいや」
 ミリアは大笑する。確かに、単純な戦闘力では二人の間には格段の差があった。
「くそっ、負けてたまるか。オレ様が全てにおいてオールマイティーだということを知らないな!」
 ヤードはやおら剣を手放した。乾いた金属音がして床にシャープソードが転がる。そして、胸の前で己の両人差し指を重ね合わせ、何かブ ツブツと呪文を唱える。
「ヤード!その呪文はヤバいアル!」
 一気に顔を青ざめさせたマスターがわめいた。いきなり、すさまじい魔力の波動が周囲に飛び散り始める。魔力を一度に消費する大技の 魔術だ。
「やめないぜ!このヤードがこんなバカ娘に負けてたまるか!」
 ヤードは怒鳴って友人の言を退けた。そして彼の口から呪文か嘘っぱちのヤード歌か解らない、一つの節が小気味よく流れてくる。
 そしてヤードは指を高く掲げた。
「イン・ヘブン!」
 短い音節の応術単語が響く。一瞬、何かが光った気がした。すると渦巻いていた魔法力が一度に激流となってミリアの胸元に集まり始め る。
「うわああああ!くっ、苦しい!」
 突如としてミリアの心臓がキリキリと痛みだした。胸が何かで締め付けられたように苦しい。内側から引き裂かれるような痛みが次々に押 し寄せてくる。
「オレがいいというまでは、そのまま心臓が締め付けられるぞ」
 ぜいぜいと肩で呼吸を呼吸をしながらヤードが言い放つ。さすがにこのような大技は彼のように巨大な魔力を持つ者でも多大な疲労とな る。
「く…そ…ジジイめ…」
「気が付いたときにはあの世行きだからこの呪文はイン・ヘブンって言うのさ。思い知ったかバカ娘め」
 締め付けられるような苦しさを感じながらミリアはヤードに向かってダッシュした。そして剣を投げ捨て飛びかかる。
「げっ!」
「捕まえたぞ!」
 ミリアはドサッとヤードの上に倒れ込み、覆いかぶさってその首を掴んだ。ニワトリを絞めるようにその細首を力一杯押さえ付ける。
「は!はなせ…」
「死んでも放すか!」
 両者とも鬼気迫る表情で激しくもみ合った。ミリアは胸の痛みに耐え、ヤードは酸欠の苦しみに耐える。どちらかが死ぬまでこの勝負は止ま らない。
「くっ…そ…」「…ま…け…」
 時間の経過と共に両者とも息もたえだえになりつつあった。
 呼吸と共に二人の心臓の鼓動は少しずつ弱くなりつつある。このままでは両者とも地獄行きである。
「まったく、このバカ共は…」
 さて、マスターはブツブツいいながらカウンターの下から大きなハンマーを取りだした。鍛冶屋が鉄を鍛える時に使う巨大ハンマーである。
「なんでこの私がこんなことしなくてはいけないアルか。まったく、ヤードもミリアも少しは大人になればいいアルに」

そう言うと絡み合っている二人の頭上に立つ。
「これが美男美女の絡みなら美しいアルが、ヤードとミリアじゃ気持ち悪いだけアルからな」
 マスターはハンマーを力いっぱい振り下ろす。目指すは二つの空頭だ。
 ゴチン!ゴチン!
 二つの鈍い音がした。
「終わったアルな」
 ひょいとマスターはハンマーを投げだした。見事にハンマーの一撃がきまり、ミリアとヤードは揃って気絶していた。
「だから、オレは何もしちゃいないって言っているじゃないか」
 それから一刻ほどの後である。騒ぎに起きて来て、事情を説明されたカサルを交えて、ヤード・カジネットに対する尋問が始まっていた。
 ヤードとミリアはロープでス巻きにされ柱に縛り付けられていた。ほどくとまた騒ぎを始めるからである。
「私も思っていたアル。ヤードはそんなセコいことをする男じゃないアル」
「おおマグヌス!やっぱりお前はオレの親友だぜ!」
「腐れ縁というやつアル」
 なかなかこのマスターもやる人物だ。見事なまでに場をまとめあげ、質問も要点をついている。他の人物に任せるとロクな方向に進まないと いうのもあるが。
「だいたいミリア、あんたがノームの封印を解いたってのは何時アルか?」
「ええと…一咋日の夕方くらいになるのかな?確か飲んだのがその晩だったから」
 それだけで、一気に金持ちから貧乏に転落した。世の栄枯盛衰は恐ろしい。
「ほら、やっぱりアルね。この国でヤードが暴れ出したというのが半年前アル。半年前はヤードはまだ封印されていたのだから、全然別の奴 の仕業アル」
 さすがマスター。あんたは賢い。
「そうだ。オレはずっと封印されていたんだ。やっと封印が解けたと思ったら、何故か知らないが武器庫の中にいた。とりあえず故郷に帰って マグヌスの店に顔を出しに来たんだぜ。虐殺なんてするヒマないぜ」
 ヤードが忌々しいしい顔で言い捨てる。身の憶えがないことで罪を問われてはたまらない。
「でも、世間の人々はそうは思っていませんよ。しかも、封印の一つが破られていたというのは事実です。これはどういうことなんでしょう?」
「それは、オレの封印とワケじゃないだろう。マグヌス、封印の一つが破られたと解ったのは何時だ?」
「やっぱり半年前アルね。それは多分フィルデの部下の一人が甦ったのが、あんたと間違われたと思うのアルが」
 なかなか込み入った話だが、一応推理は出来た。要するに、半年前に、封印された誰かが甦ったらしいのである。そしてガルメシア王はそ れを察知し、事態を深刻なものと取った。
 それが騒がれているうちに、この国でY・Kのイニシャルを付けた死体が次々に出来るという事件が発生した。
 そこで誰もが思ったのである。これはヤード・カジネットの仕業だと。
「どこのどいつがそんなコトをしやがったんだ?捕まえたらタダじゃおかんぞ」
 ヤードの鼻息は荒い。気持ちはわからなくもないが。
「とにかく、その誤解を解く必要がありますね」
「無駄なんじゃないの」
 ミリアは冷たい。
「国王に説明したらどうです?」
 カサルがなかなかナイスな提案をした。しかし、マスターは首を横に振る。
「ダメアル。私とヤードは昔ネーメト王をさんざん虐めたアル。今回のヤード退治には、個人的な恨みも入つているアル。説明しても信じない だろうアルね」
「そんなことをしたんですか?」
「おう。あいつは14歳までオネショしていたからな。昔、あいつのオネショ・シーツをオレ様とマグヌスの二人で奪ってな。「寝小便王子!」って 騒ぎながら町中を歩き回ったものだ」
「あの頃が懐かしいいアルな」
 マスターとヤードは遠い目をして思い出に浸る。そんな感慨にふけっている場合ではないが。
「じじい。テメエがいつもくだらないコトばかりしていたからそんな目に遭うんだよ。もう、勝手にやってろ!」
 ミリアは完璧にヘソを曲げてしまった。ツンと横を向いてヤードを見向きもしない。
「とにかく、オレはこの事件を解決しなくちゃならんな。誰が死のうと知ったコトじゃないが、このヤードの名前をかたるとは許さん。絶対にブッ 殺す」
 ヤードがス巻きのままで吠えた。全然格好よくない。
「そうアルか。まあ、頑張れアル。おっと、そろそろ縄をといてやるアルか」
 ナイフを取り出すとブッと縄を切った。拘束が解け、ヤードの身体が自由となる。
「な、マグヌス。お前オレを助けてくれないのか」
 マスターの言葉にヤードは驚いた。この男は頼れる人物だというのに協力しないというのである。
「私、神経痛で身体を動かすのは辛いアルね。それより、そこの若いの二人を連れて行けばいいじやないアルか」
 マスターは二人を指さした。それがカサルとミリアであるというとこは言うまでもない。
「僕は…解りました。ヤードさんはそんなに悪い人じゃないみたいですね。僕の力でもよかったら使ってください」
「いいね!若いの!まあ、よろしく頼むぜ」
 ヤードが立ち上がって手をさしのべる。ガッチリとカサルとヤードは握手をかわした。予想もされなかった二人組の結成である。
「オレはなんでもこなせるぜ。少しくらいなら治癒と回復もできる」
「ヤードは一応僧侶の資格も持っているアルよ」
 横からマスターが解説をする。
「へえ。で、なんの神を信仰しているんです?」
「神?そんな陳腐なものを信仰してられっかよ。オレ様が信じるのは己の力だけだぜ」
「こいつ、僧侶のくせに無神論者アルからな」
 カサルは空いた口がふさがらなかった。無神論者の僧侶というのは聞いたコトがない。だいたい、神を信仰していないと、僧侶の魔法と言う のは使えないはずではないのだろうか。神を信じるという行為が魔法にフィードバックするのが僧侶魔法である。
「あの、どういうことですか?」
「ヤードの奴、自信過剰過ぎて、自分の力を神以上と思っているアルね。それで、『オレ様は神だ』と思い込んだ途端に、僧侶の魔法が使える ようになってしまったアルよ。腕前は二流程度アルけれど」
 マスターがコソコソとカサル君に耳打ちした。カサルは青ざめる。やっぱり、ミリアの祖父だけはある。何かが間違っている。いや、世界の法 則からも間違っているのがおかしい。
「おーい、なにコソコソ話してんだよ!」
 振り返って見るとヤードがさっそく一杯ひっかけていた。好物のネルソンズ・ブラッドを飲んでご機嫌である。
「あ〜あたしの酒ぇ!」
 まだミリアはス巻き状態である。起き上がってヤードをフン殴りたくても手が出せない。そして、その酒はマスターの店のものであってミリア のものではないはずだ。
「おいミリア。お前も当然オレに協力するよな?」
 グラスを傾けるニヒルなヤード。この角度はなかなか格好いい。見てくれがよいから、夜の貴公子とでもいうにはピッタリだ。
「誰が協力なんかするか!あんたのケツくらい自分でふけ!」
 ミリアは吠える。しかし、特別ヤードだけが悪いというわけでもない。どっちかというと、マスターにも責任の一端はある気がする。
「なっ…なんだって…」
 ミリアの言葉を聞くと、ハッとヤードの顔色が変わり、グラスを取り落とした。酒がカウンターに流れる。
「…じゃあ、オレはこのまま罪人の汚名を背負って寂しく死んで行くのさ…そして死の床であの時助けてくれなかった不幸なオレは孫娘の名 前を叫びながら死んでいくんだ…」
 カウンターの上に突っ伏すとヤードはサメザメと泣き始めた。もちろん、これは演技である。ここでミリアが加われば、戦力は大幅に増強す る。そんなことが解らないヤードではない。全ては打算の上での行動だ。しかし、泣き落としとは実にコスい。
「ああ…オレは無罪だと冒うのに。なのにオレの主張は受け入れられずにオレは一生日陰の人生を送るんだ…うう…ああ…」
 しくしくとヤードは泣き続ける。こう言うのは面と向かって怒鳴られるよりもっと鬱だ。
「どうしてなんだ…オレはあんなにミリアという孫を可愛がった。子守もした。なのに、その娘は祖父の危機に無関心…あれほどまでに孫に心 を安らがせたオレの人生はなんだったんだ…」
 とっても湿っぼい。全てが嘘っぱちのヤードの行為だが、ミリアはこういうムードは苦手につき実に有効な戦法である。しかもバカだから、ヤ ードの行動が演技と解らない。
「わ!わかったよっ!じいさん。泣かなくてもいいじゃないか。ミリアがなんとかしてあげるからさ!」
「本当かっ」
 サッとヤードが顔を上げる。もう泣いてはいない。さすが変わり身男である。
「はいはい。あたしも付き合えばいいんでしょうが」
 もう仕方がない。これ以上ウジウジとやられてはたまったモンじゃない。湿っぽいのが嫌いな人間としては仕方がない。
 嫌々ながらもミリアはヤードと手を狙んだ。体の一部を接触させることがパーティー結成の証として知られている。これでどうにか3人のパー ティーが結成された。そして、いよいよ彼らはガルメシア国王の元に乗り込むのである。



 この辺境王国にも朝がやってくる。唾眠を貪った三人がて階下に降りてきた時にはマスタ
ーが朝食を用意してくれていた。
「うっ…朝食なんて食べれるのは何年ぶりだろう…」
 感動のあまりにミリアは目を氾ませた。いつもは朝食をとることがない。昼過ぎまでぐ〜たら寝ているからである。第一、朝食を食べる金が ない。一日一食ならまだしも、水だけという日も珍しくない。
「これ、私のオゴリにしておくアルね。まあ、頑張れアル」
 マスターが台所でフライパンのトーストをひっくり返しながら言ってよこす。なかなか気前がいいマスターだ。
「で、これからどうしようか?」
 席に付き、モーニングコーヒーを気持ちよくいただいてからミリアはヤードのカを向いた。
「う〜ん。とりあえず、ネーメトの奴にでも挨拶してくるかな」
 ヤードはビシッと決めていた。黒色のブレザージャケットにスラックス。どこから見ても完璧なホストスタイルだ。彼が魔法剣土と言っても誰も 信じないだろう。
「ネーメト国王にですか?」
 カサルは優雅にティーカッブでココアをすすっている。彼は甘いものが好きなのだ。
「ああ、今はもう国王か…うん。そうだな。無駄かもしれないが、とりあえずあいつには誤解って言っておきたいからな」
「でも、危険なんじゃないですか?」
「うん。ネーメトは俺を封じ込めたガルメシア王の子孫だから、実力は折り紙つきだ。なんたってドラゴンに変身できるからな…」
 ガルメシアの代々の国王には変身能力が備わっている。その力は国王に即位したときに始めて受け雌がれ、国事が前途多難なときにお いて始めて使う事を許されている。
 国王がひとたび封印を解けば、その姿は巨大なティアマット・ドラゴンに変化し、炎によって全てを焼き尽くす…という伝承があるのだ。
「フィーローズ王も強かったからなあ。ネーメトが弱いわけあるまい」
「それじゃあ、もし戦闘になったらどうするんです?」
「あのバカがいるだろう」
 ヤードはミリアの方へ指を差しながらカサルに耳打ちをした。ミリアはなんの悩みもないようにモシャモシャとグリーンサラダを喰っている。
「なるほど、あれですか」
「あれならネーメトさえも倒しちまうよ」
 それだけミリアは恐ろしい。さすが我が一族だ。ヤードはミリアと戦って感激したのである。
「あー、このハムエッグもうまいし、ポテトフライも美味だ。ああ、幸せだね」
 自分の事が言われているとも知らずにミリアはささやかな幸せを他人のお金で楽しんでいた。
 そして3人は朝食を済ませ、意気揚々として王城に向かったのである。


(続く)その九へ