第2章
それから一ヵ月程が経過した。ボク達四人は無事オラン国内に入り、順調に旅を続けていた。もちろんその間もモンスタ−退治だの、隊商の
護衛だのと、冒険者の仕事もこなしたが、特にトラブルらしいトラブルには会わなかった。そんな順調な旅路を送るうちに、ボクも一ヵ月前のあ
の夢のことを忘れ始めていた。
その日もボク達は『自由人の街道』を次の宿場町を目指して歩いていた。
「お兄ちゃーん、まだ着かないの〜。お腹すいたよ〜」
そうぼやいたのは‥‥、言うまでもないだろう。
「もうお腹すいたの?昼のお弁当三人分も用意していたのは誰だっけ?」 苦笑しながらボクが答えると、
「だって〜、すいたものはすいたんだからいいじゃな〜い」
とメイはすねたような声で言い返してきた。
「またか?この所毎日だぞ、お前たちのそのやり取り」
呆れ半分、面白半分と言った顔でガイ兄貴がボク達二人に言った。
「え?いや〜、ここしばらく仕事もなくて平和だし」
ボクが笑ってごまかすと、ボクの横でキャリーがふうっとため息をついた。
「平穏ねぇ。おかげで路銀つきかけているんだけど」
「そんなこと言われたって、仕事がないのはアタシ達のせいじゃないよ〜」 キャリーの愚痴にメイがそう言って口をとがらせる。
メイの言ったとおり、オラン入国からこの半月、どの町の『冒険者の店』にもこれと言った仕事がなく、いいかげん金が少なくなっているのだ。
まあ、今日明日は大丈夫だが、このままではあと半月足らずで金が尽きる。「仕事がないのはともかく、金がないのは主にあなたのせいよ。ひ
どいときはアタシやカ−ル君の三、四倍は食べてるでしょ、メイ」
キャリーの言葉にさすがにメイも
「う‥‥‥、それは‥‥‥」
と言葉に詰まった。
「おいおい、キャリーもそのぐらいにしておけ。それよりもそろそろ町が見えてきたぞ」
そう言ってガイ兄貴が指さすと、確かに道の向こうに町の明かりが見えてきた。それを見た途端、しょげていたメイの目に輝きが戻った。
「やった〜、ご飯だご飯だ〜」
と、大喜びで町めがけてかけていく。
「ちょっと、メイ!話まだ終わってないわよ」
その後をキャリーが追いかけていく。
「‥‥なあ、カール。メイって反省している‥‥、と言うか覚えているのか?さっきのキャリーとのやりとり」
茫然とした顔でそれを見送りながら、兄貴がボクに訪ねた。
「兄貴、あれで覚えている‥‥ように見える?」
「いや、全然‥‥」
兄貴は呆れたように頬をポリポリと掻いた。
ボクと兄貴が二人から少し遅れて町につくと、辺りはもう暗くなり始めていて、何軒かはすでに明かりが見えていた。『冒険者の店』の看板を
掲げた一階が酒場になっている宿屋の前にメイとキャリーが待っていた。
「あ、来た来た。早くご飯にしようよ」
ほどなくしてボク達四人は酒場のテーブルを囲んでいた。もちろん、一番よく食べているのはメイである。キャリーはいち早く食べ終えて、背中
に背負っていた愛用のギターの調整を始めていた。大方、ここで一曲披露して、小銭でも稼ごうという腹だろう。事実、仕事にありつけてない今
日この頃、ボク達の収入はキャリーがギタ−で流しをしているだけだから仕方がない。
「ところでおやじさん、なんか冒険者向けの仕事ってないか?」
食器を片付けにきた店の店主に、兄貴は尋ねた。
「ん?‥‥そういえば、魔術士ギルドから急ぎの仕事がきてたっけ、ほら」 少し考えてから店主はそう言って店の壁を指さした。普通、『冒険者
の店』や旅人向けの宿は、仕事の内容や依頼料を書いた紙を壁に張ってある。この店も壁にわずかながら張り紙がしてある。そして、店主の
指さした先に貼ってあった紙にはこう書かれてあった。
『消息を絶った調査隊の捜索。報酬一人八百ガメル。魔術士ギルドまで』「行方不明者の捜索か‥‥あまり穏やかな話じゃないな」
依頼の内容を読んで兄貴が顔をしかめた。
「ちょうどいいし、明日朝イチで話を聞きに行ってみようよ、ね?」
メイがなに食わない顔でそう言った。ボク達にはそれに反対するつもりはなかった。
その翌日、ボク達は魔術士ギルドに行って話を聞いてきた。それによると、数日前にこの町の近くの森の奥で古代王国時代の物とおぼしき
建物が発見された。そしてただちにこの町の魔術士ギルドから調査隊が派遣された。しかし、片道二日ぐらいしか掛からないはずなのだが、十
日過ぎても帰ってくるどころか連絡もない。そこで、調査隊の捜索と行方不明の原因解明を冒険者に頼もうと店に張り紙をしたところ、仕事に
あぶれていたボク達が飛びついたというわけだ。
報酬もそこそこよかったし、久々に冒険者らしい仕事ができそうだ。というわけで全員一致でこの仕事を請けたのだが‥‥‥‥。
「確かこの辺と聞いたのだが‥‥‥」
魔術士ギルドから渡された地図を眺めながら、ガイ兄貴は頭をぼりぼりと掻いた。
「ガイ君、ひょっとして迷った?」
側の木にもたれかかっていたキャリーがそう言って兄貴を見た。
「え、ええと、あの‥‥、‥‥すまん」
そう言ってうなだれる兄貴にキャリーは大きくため息をついた。
「やっぱり、アタシが地図見ればよかったわね‥‥‥」
兄貴が何気なく「今回はオレが地図を見よう」と言い出したのと、他の三人がそれに反対しなかったのがまずかった。ボク達の中で兄貴が一
番地図を見るのが下手だったのだが、このところ仕事をしてないせいか、みんなすっかり忘れていたのだ。その結果、森の中でみんなそろって
迷子というわけである。
「本当にすまん。慣れないことはするべきじゃないな‥‥」
ガックリと肩を落とす兄貴にキャリーがフォロ−するように言った。
「別にいいわよ。アタシ達だって止めようとしなかったし。それに、何とかする方法はあるわよ。メイ、何かわかった?」
そう言って、キャリーはメイのほうを見た。さっきからメイはそばの木に向かって何やら話しかけている。精霊語でドライアード(森の木の精霊) に道でも聞いているようだ。精霊使いでないボクには何を言っているのか分からないが、いつもボク達に話しているかのようにニコニコしながら
話している。しばらくすると、メイはこっちのほうを向いた。
「精霊さんが、何日か前に人間が何人かあっちのほうに行ったって」
そう言って、メイは森の奥の方を指さした。
「精霊さん達は人間の区別なんかつかないって言うから、はっきりとは分からないけど。でも人数とか調査隊と一致するし、多分間違いないよ」
そう言って会心の笑みを浮かべるメイに、少しは立ち直った兄貴が尋ねる。
「ところでメイ、彼らはその後帰ってきたのか?」
「ううん、全く見てないって」
そう言ってメイは首を横に降る。
「‥‥と言うことは、まだ遺跡にいるとみたほうがいな。‥‥生死は抜きにして、だがな」
そう言うガイ兄貴の顔は、さっきとはうって変わって熟練した戦士のそれになっていた。
「それじゃあ、アタシが先頭行くよ。方角さえ分かれば足跡とかも見つけやすいしね」
そう言ってキャリ−は先行して歩き出した。その後をボク達はついていった。
それからほどなく、キャリーが調査隊の足跡を見つけたため、その後は特に何もなく、その遺跡とおぼしき建物についた。あちこちが崩れて
いて、蔦が大量に絡みついた小さな屋敷ぐらいの大きさの石造りの家といった感じだ。まあ、それだけなら普通の遺跡なのだが、その周りの光
景を見たとき、ボク達は愕然とした。
「うっ‥‥‥」
目の前の光景にボクは言葉を失った。
「これは‥‥」「ひどい‥‥」
キャリ−とメイもそういうのが精一杯だった。口には出さないが、兄貴の顔も青ざめている。
遺跡の周囲には、ロ−ブを着てたり学者っぽい格好をした無数の死体が転がっていた。彼らの流したであろう大量の血が辺りの地面を朱に
染めていた。その中の手近な死体にメイが近寄っていった。メイは医術の心得のあるため、死体を調べようというわけだ。普段の子供っぽい
のとは違って真剣な表情で死体の傷を見たり、死斑を見たりと検死を始めた。
「‥‥死後五日〜七日くらい、死因は‥‥この傷ね」
さすがに少し暗い顔でそれでもメイはテキパキと検死を進めた。メイの言った通り、この死体だけでなくほとんど全ての死体が何か大きな刃
物で切りつけられたような傷があった。中には、完全に真っ二つになった死体も数体あった。
「かなり大きな刃物でやられたみたい。凶器が剣などの類としたら、相手はかなりの怪力の持ち主よ」
そう言って検死を終えると、メイは立ち上がった。。
「死体の数からして、調査隊は全滅のようだな」
別の死体にファリスの印を切りながら兄貴は言った。
「ちょっと、みんな。これ見てよ」
キャリーがそうボク達を呼んだ。行ってみると、かなり大きな足跡が地面についていた。よく見ると、現場の至る場所についている。これに気
づかなかったなんて、よっぽどこの惨状に気を取られていたようだ。
「かなりデカいな。人型の生物なら2〜3mってところか」
「いや、違うよ、兄貴」
ガイ兄貴の推測に対してボクは異を唱えた。確かに大きさとかは兄貴の言う通りだと思うが、足跡がのっぺりとしすぎている。足の指はおろ
か、土踏まずの跡すらないのだ。
「もしかしたらゴーレムの類かも知れないよ。調査中に遺跡内にいたゴーレムが目覚めて調査隊を襲ったとしたら‥‥」
「アタシもカール君の意見に賛成ね。用心しておいたほうがいいわね」
そう言いながらキャリーはゴーグルをはめて、腰のベルトからダーツを抜いた。このゴーグルは彼女がつけている腕輪とセットになっていて、 飛び道具の命中率を上げる魔法の道具だ。
「それにこの足跡、遺跡から出てきて、最後には遺跡の奥に向かっているわ。ひょっとしたらまだいるかも」
そのキャリーの言葉に、ボク達も戦闘準備を整えた。兄貴は長剣と魔法の盾を構え、メイは後方に下がりながらレイピアを抜き、ボクは背中
から抜いたクレインクインを巻き上げて、矢をセットする。
「‥‥行ってみよう。原因を突き止めないと」
ボクがそう言うと、みんなはゆっくりと、扉が開け放たれたままの遺跡の入口へと歩き出した。遺跡の中は外からでは暗くてよく見えない上
に、物音一つ聞こえない。
「メイ、何か見える?」
ボクはメイに尋ねた。精霊使いである彼女は暗闇を見る能力がある。
「ここからだと玄関周りしか見えないよ。特に動くものは‥‥。あれ、何かいる」
メイがそう言ったその時、奥の闇に赤く光る一つ目が見えた。ドスンドスンという大きな足音をたてながらゆっくりと何かがこちらに近づいてく
る。そして、それは何かを構えながら抑揚のない古代語でこう言った。
「魔法使イ3名確認。認識票及ビソレニ類スルモノノ確認デキズ。直チニこまんどわーどノ提示ガナケレバ、標的トミナシマス」

標的とみなすという言葉にボクは嫌なものを感じ取った。それに、ボク達はコマンドワ−ドも認識票も持ち合わせがない。だとしたら次に予想
できる行動は‥‥。
「マズイ、みんな下がるんだ!」
ボクがそう言って、みんながが飛び退くのに一瞬遅れて、それは遺跡の外に飛び出し、さっきまでボク達のいた空間を手にした刀でなぎ払っ ていた。
「こまんどわーどノ提示確認サレズ。マタ、逃亡モ確認。ヨッテ標的トミナシテ、コレヨリ排除スル」
そう言って、それはゆっくりとボク達を見た。
兄貴やボクの推測通り、身長は3m弱、体は青銅と思われる金属製のゴーレムだった。左腕は肩から先がない。取れたと言うよりもまだ作り
かけといった感じだ。右手には人間の身長より少し大きな曲刀を握っていて、その刃には乾いた血と思しき赤いものがべったりとついている。
先ほど見た赤い光は、頭部に一つ目のようについている赤い色の石だった。それは今も怪しく光っている。そして、ゴ−レムの左胸には古代語
で『ソーサル・マーダー(魔法殺し)』と書かれていた。初めて見るタイプのゴ−レムだが、武装していることから戦闘用ゴ−レムと見て間違いな
いだろう。
マーダーは地面を蹴ると、ボク達に向かって突進してきた。ボクはすかさずクレインクインの引き金を引いた。空気を切り裂いて矢が目標に 向かって飛ぶ。次の瞬間、鈍い金属音が響いた。普通の人間なら吹っ飛ばされるぐらいの反動とともに放たれた矢をマーダーはいとも簡単に
刀ではじく。、しかしこの一撃でマーダーの足は止まった。受けたときの衝撃が大きかったのか、わずかに足がよろけている。
「やったな、カール!」
その隙を逃さず、兄貴が気弾の魔法を唱える。不可視の衝撃波で敵を攻撃する神聖魔法の攻撃呪文だ。風がうなってマーダーに向かって 見えない何かが飛んでいき、命中したように見えた。しかし、マーダ−はよろめく素振りすら見せない。それどころか、魔法が飛んできたことに
すら気づいてないようだ。
「だめーじぜろ。各部機能稼働率、86%。完全トハ言イ難イモノノ、戦闘行動ニ支障ナシ」
マーダーがそう言う間に、ボク達は散開してマーダーを取り囲んだ。メイが一本の矢を取り出して精霊語で呪文を唱えだした。どうやら、風の 精霊の力で矢を飛ばす「風の矢」の精霊魔法のようだ。その反対側で魔法のゴーグルをはめたキャリーがダーツを構えている。ボクもクレイン
クインを背に収めると、三節棍を抜いた。
「いくわよ、メイ!」
キャリ−が声を上げると同時にマ−ダ−にダーツを投げ、メイが矢を投げつける。しか、キャリーのダーツは装甲に阻まれ、メイの矢に至って
はマーダーに届く直前にピタリと止まると、その場に落ちた。
霊の力で矢を飛ばす「風の矢」の精霊魔法のようだ。その反対側で魔法のゴーグルをはめたキャリーがダーツを構えている。ボクもクレインク
インを背に収めると、三節棍を抜いた。
「いくわよ、メイ!」
キャリ−が声を上げると同時にマ−ダ−にダーツを投げ、メイが矢を投げつける。しかし、キャリーのダーツは装甲に阻まれ、メイの矢に至っ
てはマーダーに届く直前にピタリと止まると、その場に落ちた。
「え、なんで‥‥」
茫然とつぶやくメイの方にマーダーはゆっくりと向き直った。間接のきしむにぶい金属音が断続的に響く。奴がメイに襲いかかろうとした時、
ボクと兄貴はその前に飛び出していた。
「ボケッとしてるな、メイ!」
ボクは三節棍で、兄貴は剣で二人同時マーダー目がけて降り下ろした。マーダーは刀で三節棍を受け止めようとするが、間接部分から折れ
曲がった棍は刀を乗り越えて右肩に命中した。兄貴の剣も脇腹を叩いたが、どちらもさほど効いたよう様子はない。
「‥‥カ、カールお兄ちゃん」
後ろから、メイの茫然とした声が聞こえた。
「どうした、メイ!」
マーダーから目を放さずにボクは答えた。
「このゴーレム、魔法が効かないよう‥‥」
「魔法の抵抗力が高いだけだろう」
ボクはそっけなく答える。
「そんなのじゃないよ。さっきの風の矢の魔法、ゴーレムの目の前で矢を運んでいた風の精霊さんが何か壁に当たったように弾かれたの。今も
相手の動きを止めようと大地の精霊さんに呼びかけているんだけど、精霊さんが近寄れないのよ」
本当に困ったメイの声が背中から聞こえてきた。その間にもボクと兄貴にはマーダーの攻撃が降りそそいでいた。
「魔法が効かないだって?‥‥兄貴、ちょっと下がって」
ボクはそう言うと、雷撃の魔法を放った。ボクの手から現れた雷撃がバチバチと荒れ狂いながらマ−ダ−に向かって伸びていく。しかし、雷撃
はマーダーの体に届く前に何かに弾かれて体には届かなかった。メイの言う通り、マーダーの周りに見えない壁でもあるように。
「こ、こいつ‥‥」
呻きながら、ボクはマ−ダ−の赤く光る目を見た。確かにマーダーには、魔法が効いてない。ソーサル・マーダー(魔法殺し)の名はこのこと だったのだ。
「みんな、こうなったら魔法抜きでやるしかない!」
そう言ってボクは渾身の力でマーダーに三節棍を叩きつけた。
「あんちまじっく稼働率76〜92%。ヤヤ不安定ナガラモ、現時点ノ防御率ハ100%。コノママ戦闘ヲ続行スル」
そう言うとマーダーは、続け様に刀を繰り出してきた。ボクは一歩下がって代わりに兄貴が先頭に立って愛用の魔法の盾でそれを受け流して
いく。マ−ダ−の攻撃はパワ−は大きいが比較的単調のため、兄貴は攻撃を何とか防いでいる。その隙にボクの三節棍が左足に、キャリー
のダーツが腰の間接に命中した。さすがのマ−ダ−も今度は少しよろめいたが、動きが鈍る様子はない。その時、マーダーが攻撃の手を止め
た。
「何だ?」
兄貴が怪訝そうに言った途端、マーダーはいきなり大地を蹴って、兄貴に肩から勢いよくぶつかってきた。金属製とは思えない身軽さだ。
「うわっ!」
ガイ兄貴の悲鳴と、金属のぶつかる音がする。とっさに盾で防いだものの、兄貴は大きく吹っ飛ばされて後ろの木に激突した。
「‥‥‥ぐはっ」
呻き声をあげて兄貴は地面に倒れた。
「ガイお兄ちゃん!」
呻きながらも何とか立ち上がろうとする兄貴の側に駆け寄ってメイは回復魔法を唱えようとする。マーダーは追い打ちをかけようとその二人 目がけて突進する。キャリーが足止めをするべくヤツの頭に向かってダーツを放つが、ヤツは動きを止める事なく刀でダ−ツを弾いた。
「兄貴、メイ!‥‥‥くそっ、貴様の相手はボクだ!」
ボクはマーダーに向かって、再度雷撃の魔法を放った。やはり魔法は届くことなく弾かれたが、マーダーはこちらを向いた。ソ−サル・マ−ダ
−という名と今までの言動から察するに、どうやらこいつは対魔法使い用のゴーレムのようだ。だとすれば、魔法やそれに準ずるものでコイツ
を引き付けれるはずと考えたのである。思った通り、マーダーはメイ達をそっちのけでこちらに向かってきた。
「標的確認。排除スル」
マーダーはそう言ってボクのほうを向いて刀を構えた。とりあえず作戦は成功だ。
(さて、引き付けはしたがどうしたものか)
三節棍を構えながらボクは次の対策を考えていた。魔術士でもあるボクは、兄貴と違って金属鎧も盾も装備していない。魔法を使うとき邪魔
になるからなのだが、それが肉弾戦では仇になる。強い一撃を食らったらただではすまないだろう。とりあえず、兄貴が回復するまで持ちこた
えなければ‥‥‥。
「こうなったら‥‥‥、ご先祖!ヤツの結界内でも『剣』は使えるか?」
ボクは腰の『剣』に呼びかけた。
<‥‥多分大丈夫だと思うが、ヤツのアンチマジックの結界の出力がいささか不完全だ。何が起こるか分からないぞ>
頭に響いたご先祖の声が忠告してくれたが、それを聞いている余裕はなかった。
「使えるなら構わない!行くよ、ご先祖!」
そう叫ぶと、ボクは『剣』を抜いた。たちまちその刀身が鋼から光の刃にと変貌する。
「グ‥‥」
『剣』の光を見たマーダーが目を押さえてよろめいた。ボクはそのスキに渾身の力を込めてマーダーに『剣』を振り下ろした。マ−ダ−の目の
前で見えない壁に当たったかのように光の刃が一瞬止まる。かまわずに押し切ろうとした瞬間、マ−ダ−の回りの空間でバチバチッと言う音が
した。そして、目の前の光景がグニャリと曲がって、白く光った‥‥‥‥‥。そのままボクの意識は遠くなった。
(続く)第三章 へ